2009/08/24


ピロはタロウさん・ミホさんの愛犬で、アトリエのなかをうろうろしたり、玄関マットで寝たり、模型の色サンプルと一緒に太陽の下で干されていたりする。レストランにも撮影にも一緒について行く。この間のtacubaya郊外の撮影では民家の屋上に上れないので、近くの柵にくくりつけられたいた。「連れて行かれそうで心配だなあ」とタロウさん。この国では犬も誘拐されるのである。

2009/08/21


遠景に見えるのはシティ郊外の住宅地。所有していない土地を不法に占拠して住み着いている人々の灯火が星雲のように輝いている。メキシコでは不法に占拠していても、15年間住み続けると自分の土地になるという法律があるそうで、都市計画の外にいる住人たちが都市を拡大している。道路整備などの計画は後からやってくるので、メキシコ郊外の風景はいつも乱暴だ。

2009/08/20


9月3日からchapultepec公園の国立人類学博物館で展示するdreamhouse in mexico cityの1/20模型を制作中。借り物のアメリカンなファサードをコラージュして、増築に増築を重ねたという設定の分裂症的プランニングとパッチワーク外壁。テクスチャを貼り込んで家具を入れて、メキシコシティ市民の夢の家と、そこからずれたメキシコ人の謎に満ちた生活を再現する。めざすはポストモダンバラックハウス。

2009/08/19


これはメキシコでかつて使われていた教育用のペーパーで、クスリをやってはいけないよという内容が描いてある。1枚の紙に1テーマが収められていて、表は劇画タッチの画で、裏はテキスト。余白に沿って切っても表裏の内容が対応する優れものである。1枚1ペソ。地方の貧困な学童のための教科書であったそうで、一度に高い教科書を変えない家庭が授業ごとに1枚づつ買っていたそうだ。

2009/08/18


アトリエ・タロウはtacubayaから歩いて10分の事務所。タロウさんと、ミホさんが仕切り、所員?の梶さんとゲストヘルパーのあわせて5人が部屋をあたためている。ミホさんはアーティストなので、建築のアトリエではありえないようなモノの多さで、犬のピロと作品に埋もれながらの作業はとても楽しい。建築模型に囲まれて作業するのとはまた違ったプロダクティブな雰囲気。外が見えないことに唯一難点を感じるが、薄い建具のおかげで物音は筒抜けなので外界とはちゃんと接続しているのである。

2009/08/17

tacubaya郊外のdreamhouse
リスボントリエンナーレの展示
模型のためのエスキース
All images:(c)Taller de Arte y Arquitectura México-Japón
とあるメキシコ人は言った。
アメリカは夢を見ることができる国だけど、メキシコは夢を実現できる国だ。

dreamhouseは建築により実現される夢である。
貧困層のメキシコ人は仕事を求めて移民としてアメリカに渡り、懸命な労働で得た報酬は故郷で彼らの夢をかなえる。彼らの夢は豊かな家の建設である。アメリカの雑誌から建築手法を得て帰ってきたメキシコ人は、アメリカンなメキシコの家を建てる。メキシコ在来の住宅には似ず、メキシコの地に唐突に立上がり、メキシコのライフスタイルからずれたアメリカンな家が、彼らのdreamhouseである。タロウさんは移民問題を建築の視座から語るために、dramhouseの住人へのインタビューと、調査で抽出されたdreamhouseの模型を表現としている。
今は国立人類学博物館での9月の展示に向けて、新しい模型を製作中。メキシコシティの町中で採集したアメリカンハウスの立面をブリコラージュして、dreamhouseの模型を立ち上げる。既製のスタイルを適用した家を、さらに編集して作られる家は、まさにレディ・メイド。ミホさんの傾倒するマルセル・デュシャンの打ち立てた概念である。イコニックな要素で立面を構成するところはポストモダニズムと共通するが、ポモが非現実な記号の世界を写像するにとどまったのに対しdreamhouseが背負う意味の世界は現実の社会に根を下ろしている。

2009/08/16




土曜朝10時、タロウさんの事務所から近所の公園へ向かう。公園でボクシングの北米チャンピオン・セペロさんと会い、トレーニングで汗を流す、というタロウ事務所の習慣がある。コーチの北米チャンピオンは事務所近くの飯屋のおじさんで、この日で43歳。明るく厳しい1時間半のコーチングのお返しに、午後はケーキで誕生日を祝う。10時まで事務所の仕事を手伝い、所員?の梶さんの友人宅でビールパーティー。メキシコ人と日本人が半々なので、スペイン語ビギナーも安心だ。

2009/08/15



tacubayaはメキシコシティ郊外にあたる街で、所得層が低く治安の良くない地域といわれている。立ち並ぶ建物はメキシコの標準的な姿を目指しているが、建設途中で資金が尽きて完成に至らず使われているものがみられる。というか、完成のための資金が貯まる前に建て始めてしまう。上の写真は1階を左官で仕上げたが2階は躯体の煉瓦積みが露わである。下の写真は完成した平屋の建物から柱が伸びている。柱の先には増築のために鉄筋が露出している。徐々に発育する建物。生成する都市。

2009/08/14


マリオ・パニの住宅のシェアメイトはジェシカさんといって、2代前に中国からアメリカに移民した家族なので中国語と英語のバイリンガルで、むかし日本に1年間いたことがあるので日本語も話せるトリリンガルで、いまはメキシコにいるのでスペイン語も話せるクアトロリンガルだ。IP電話でいろんな人と話していると、あるときはスペイン語だったり、またあるときは英語だったり、はたまた中国語になっていたりして、僕と話すときは日本語になる。いまは社会援助の仕事をしているという、たくましく小さな人だ。それにくらべてなんと自分のひ弱なことか!

2009/08/13

メキシコシティのメトロの西端tacubataからさらに西へ
ガイドのおかげでえらいところから撮影


左から、自分、ガイドのfovianoさん、建築家のホセ・タロウ・ソリージャさん、アーティストのハギノミホさん。
タロウさんは建築家で、ビデオドキュメンタリー作家の日系メキシコ人。移民をテーマにした作品「DREAM HOUSE」で注目を集めている。ミホさんはデュシャンに傾倒するアーティスト。fovianoさんはボクシング北米チャンピオンの息子。今度の展覧会のための写真撮影についていった。メキシコシティの西端tacubayaから車でさらに西へ。山がちな郊外に建つ建設途中でストップしたビルに入る。普通外国人は入れないそうだ。ずんずん進むと山肌に張り付く無数の家々が広がり、高層ビルが唐突に屹立し、道路が無関心に走り抜けている。山にしがみつくバラックが圧倒的に恵まれた光に曝される様は、か弱いが力強く、悲しげでいきいきとしている、野生の都市風景である。

2009/08/10






配置 住戸平面

先輩の知り合いのホセ・タロウさんの紹介で引越した。この研修生は、メキシコについてから数日以内に住居を探して契約しないといけない。研修生にとって最初の難関である。スペイン語での交渉や保証人の調達の問題など、家に入るまでにはかなりのハードルがあるにもかかわらず、ホテルは数日内にチェックアウトしなければならない。わりと無茶なのである。僕は現地調達などできないだろうとびびって知り合いネットワークを辿っていったら、行き着いたのはマリオ・パニという建築家の計画した集合住宅の12層目。ほぼ最上階のシェアルーム。なんとすばらしい家!なんと優良な不動産ストック!
マリオ・パニはUNAM(メキシコ国立自治大学)を計画した建築家の一人で、この集合住宅は1949年竣工(くわしくはa+u0302に掲載)。RCのフレームに煉瓦色の嵌った外観。6つの住棟がメキシコシティのとあるブロックに雁行して配置され、空地は森とバスケコートと店舗。共用廊下からはメキシコシティが一望でき、その先にはシティを囲む山並み。なぜか僕の住む部屋の入口には鍵が5つついているのは、前の住人が日本人だったからか。内部はメキシコには珍しいメゾネットで、シェアルームだけどゆるやかなワンルーム。建築的仮設と振る舞いの調整が求められる。

2009/08/08


メキシコは危険な国だといわれているが、実際危険な国らしい。
メキシコ全体では麻薬取締に関わる闘争で今年度4000人が銃撃戦の犠牲になり、メキシコシティでは年間17000人が交通事故で命を落とし、年間300000件の強盗があるという。街では強盗にあっても抵抗せず、平静を保って鞄を渡し、大きな被害でない限り届出をしないのが得策だと大使館員に説明された。面通しなどで顔が割れると報復のおそれがあるし、そもそも留学期間を裁判に割くことはたいへんもったいないことだそうだ。合理的な判断。
磯崎新によって1962年に都市破壊業KKなる文章が出された。それは東京の都市自体を殺し屋と揶揄し、これをもって都市からの徹底を表明したものである。メキシコシティはまぎれも無く殺し屋であり、都市問題の過密集積地であるが、どうもこの街から議論を撤退すべきとは思えないのである。このメキシコシティはとても純粋な「都市」に見えて仕方ないのだが。

2009/08/07




17時成田発。
太平洋を越え、グランドキャニオンを眼下に臨み、15時間の空の旅の末にメキシコシティに降り立つ。メキシコシティは山に囲まれたグリッド状の都市圏で、形は京都みたいだが、規模は東京圏に近い。山並み、田園、郊外の上を滑空し、平面的過密の都心部に敷かれた空港に突っ込む。
一緒にメキシコで1年間を過ごす人たちは、文化人類学の立場から原住民研究をしたい阪大の大学院生や、農業経済を研究しながら英語とスペイン語を話せるようになって国際貢献したい慶応の大学院生や、メキシコのサッカー教育を身を以て知りたい筑波の大学院生、人生のバカンスを楽しむ国家公務員、就職内定を蹴ってフェルナンド・ロメオの手伝いをするフリーター、青年海外協力隊でパラグアイの子供に音楽を教えていたお姉さん、恋人に人生を振り回されながらも歌手を目指すゲイのお兄さんなどなどなど49名。