2014/05/11



廣澤秀眞さん設計「擁壁/住宅」

<都市圏、擁壁、切実さの様相>
東京を中心とする世界最大の都市圏域は、広大な武蔵野台地を使い尽くし、これを取り囲む丘陵地でようやく都市化の手を緩める。都心の平地では近代都市計画学をもとに、飽くなき近代都市計画と経済発展の渇望が都市インフラの合理化と建物の高密高層化を繰り広げている。一方、郊外の丘陵地では住宅地の拡大を目指す造成開発が都市形成の主調となる。造成開発は都市からの距離と土地の勾配により経済性の限界を迎え、都市圏域の境界線が生まれる。擁壁/住宅の立つ横浜市金沢はこの境界線のやや内側にある土地であった。

金沢の丘陵地に住むために、人々は造成をし、擁壁を築き、家を建設する。擁壁と住宅が交互に現れるこの場所の景観は人間が土地に住むための切実さの様相である。設計者が4年間身を置いたメキシコシティには、急激な都市化により生まれた盆地周縁部のスラムが広がっていた。住人自身により建設されたバラックが斜面に張り付き溢れ返る風景は、遣る瀬ない社会を表象した切実さの様相であった。経済状況も文化も違えど、人間が土地に住まう切実さは共通している。それはマルティン・ハイデガーにより「生きること、住まうこと、考えること」で語られた存在論の風景である。

<家族、大きな壁、多室系の豪邸>
この建築には2.5世帯の家族が住むという。前近代の大家族でもなく、近代の核家族でもなく、かといって現代の個人あるいは集合した個人とも異なる、独立かつ集合するという現代的な家族の形式である。この家族形式を包容する住宅の形式は、民家、nLDK、ワンルームも、シェアハウスといった住宅の形式とは異なるべきものである。ここに独立と集合を担保する新しい住宅の形式が求められる。設計者は交差する二重の大きな壁を住宅の中心とした。まず大きな壁は敷地を4分割し、独立した場所を生んだ。先の擁壁とこの大きな壁で、空間の大勢が決まっている。

住宅には人間が生きるための象徴的かつ空間的な中心が必要である。生きるための中心は、茅葺き屋根や大黒柱であったり、リビングルームや中庭であったりするが、ここでは擁壁と大きな壁であった。機能的な現代住宅からすると、擁壁と大きな壁は常軌を逸した過大に立派な存在であり、これらが住宅を城塞のようにしている。家族はまさに一国一城の主になることができたわけで、象徴の水準での幸福を担保している。また各室は大きな壁—家具のある屋内―屋外の空間ユニットをなしており、後ろ盾をもち、外の世界につながる場所を獲得している。ここで統合される屋外は、擁壁で持ち上げられた庭と高所からの樹冠の借景であり、形式を超えて現実的に利用可能ものである。安定感と解放感をもつ複数の空間ユニットを一つの建物に束ねるという所作はとりもなおさず建築的営為である。住宅の形式の系譜からすると、メキシコにもあった中庭型豪邸の反転ともいえよう。すなわち、外周壁—連続した多室—屋外というユニットを、大きな壁—独立した多室—屋外と裏返した形式である。かつての豪邸がその形式の強度によって時代を超えて使い続けられるように、この建築もいずれ住宅の必要を失ったとしても、存在できる形式の強度をもっている。

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